稲見一良 07 | ||
花見川のハック |
これが本当に最後の作品集である。ベッドの上で半身を起こし、死の直前まで書き続けた文字通りの遺作作品集だ。狩猟、鳥、銃、少年、戦い、冒険…稲見さんの作品で繰り返し用いられたこれらのモチーフが、すべて詰め込まれている。
他の作品にも言えることだが、稲見一良という作家についての予備知識があるかないかで、読者の受け止め方は大きく変わってくるだろう。正直なところ似通った作品が多いのが目に付くが、他のどの作品よりも自己投影の色合いが濃い。さすがにご本人も、死期が近いであろうことを意識していたと思わざるを得ない。
例えば、「煙」「曠野」における父の深さ。「花の下にて」における老人の覚悟。「シュー・シャイン」における若者の義侠心。「男結び」における男の不器用さ。それらはすべて、稲見一良という人物に自ずと結びつく。
そんな中、表題作「花見川のハック」や「オクラホマ・キッド」「不良の旅立ち」が光る。これぞ稲見流の大人のためのメルヘンだ。これらの作品に登場するのは、現代社会から爪弾きにされた人間たち。だが、情報過多の現代社会に適応することに、どれほどの意義があるのか?
最後に収録されたわずか2pの掌編「鳥」は、小説というより辞世の句としか思えない内容だ。文字通り、飛び立つ直前に書かれたのではないか。
本作に限らず、稲見さんの作品に登場する人物たちは決して弱音を吐かない。それは稲見一良の男の美学なのだろう。しかし、僕は思う。弱さを垣間見せることは、果たして恥なのだろうか? 稲見さんに問いたい。あなたは強さを追求するあまり、骨身を削りすぎたのではないですか?
などと書きつつ、もっと稲見さんの作品を読みたかったとも思う。稲見一良は鳥になった。「発つ鳥を跡を濁さず」という言葉は、まさにあなたに相応しい。