井上夢人 04


プラスティック


2000/11/26

 本作の文庫版解説で、ミステリ評論家の千街晶之氏は「評論家泣かせの小説」と評している。また、解説文を読むのは一旦中止して、まず本文をじっくり読んでほしい、とも述べている。

 その通りだろう。僕も素人なりに、核心となる部分にだけは触れないようにしているのだが、本作に関する限り、あらすじにさえも触れてはいけないような気がする。どんな些細なことでも、未読の方に先入観を与えてしまうのではないか。僕の文章になど目を通さず、まっさらな状態で読むのが正しい判断だということを、予め断っておきたい。

 本作は、ある事件についてまとめられた一枚のフロッピーディスク、という体裁になっている。内容は事件関係者による独白である。全部で53個のファイルは、必ずしも時系列順にはなっていないが、順番に読まれることを意図してまとめられている。

 ネタについてはありきたりだろう。似たようなネタを用いた作品は多いし、僕も何作か読んでみたが、いずれも納得できなかったと記憶している。本作も、正直に言ってびっくり仰天とまではいかなかったが、今までに読んだ類似の作品の中では、最もうまくネタを料理した作品だと思っている。

 一枚のフローピーディスクにまとめた人物自らが、終盤手前で真相を暴露してしまう。かなり露骨な伏線があちこちに張られているので、薄々感づく方も多いだろう。その後はくどくどと解説が続く。いいかげんいらいらしてきたところで…もう一つの真相が明かされる。うーむ、そうくるか…。

 タイトルの『プラスティック』を、作中では「可塑的な」と訳している。もっと簡単に言ってしまえば、いかようにでも変形可能、ということか。その筋の専門家に言わせれば、本作は穴だらけなのかもしれない。しかし、小説が創作物である以上、自由を妨げてはいけない。そんなことを考えさせられる、井上さんならではの秀作だ。



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