井上夢人 08 | ||
風が吹いたら桶屋がもうかる |
本作は、超能力物…と言っていいのかな? 超能力物の書き手として、僕が真っ先に思い付くのは宮部みゆきさんである(と言うより、他にほとんど知らない)。胸の詰まるような宮部作品もいいけど、本作のように肩の力を抜いて読める作品もいいんじゃないか。このセンスには拍手喝采を送りたい。
全7編とも、水戸黄門に匹敵するワンパターンと、吉本新喜劇に匹敵するお約束の繰り返し。ここまで徹底したら大したものである。しかし、決して最後まで飽きさせない魅力が、本作には備わっている。
牛丼屋でアルバイトをしているシュンペイを、美女が訪ねてくる。依頼を受けたシュンペイは、超能力者のヨーノスケに引き合わせる。ヨーノスケが悪戦苦闘しているところに、イッカクが割り込んで独自の推理を展開する。それを聞いた依頼者の女性は、慌てて駆け出す。そして後日、お礼を言いに来た依頼者の口から真相が語られる。
ヨーノスケの超能力―シュンペイに言わせれば低能力―が、何とも頼りない。ついでに、イッカクの推理は常に的を外す。しかし、なぜか依頼者には感謝され、口コミで評判が広がってしまうのだから面白い。
こういう連作作品を魅力あるものにするには、やはりキャラクターの魅力が不可欠だろう。どこかずれているシュンペイ、ヨーノスケ、イッカクのトリオが、本作の大きな魅力であるのは疑う余地がない。このうちの一人が欠ければ、魅力は半減していただろう。何だかんだで彼らは仲がいいのである。
もちろん、謎解きとしても面白いのだから、言うことなしだ。「目の見えぬ人ばかりふえたなら」の真相など傑作である。内容にまったく関係ない各編のタイトルさえも、何だか本作に相応しい気がする。
最後に。めげるなシュンペイ、明日があるさ。