井上夢人 13


魔法使いの弟子たち


2010/04/16

 岡嶋二人としての活動期間は10年に満たないが、その間に28作品を残した。一方、井上夢人としての活動期間はもうすぐ20年になろうというのに、本作がやっと13作品目。長編としては実に約9年ぶりの新刊である。

 決して多いとは言えない井上夢人作品を振り返ると、ミステリーというよりSF色が濃い。本作もまた然り。井上さん曰く、ホラ話というヤツを書きたいと思っていたそうである。そして届けられた大作は、まさしく大言壮語、大ホラも大ホラ。

 山梨県内で発生した、致死率ほぼ100%の新型感染症。やがて「竜脳炎」と命名される未知の感染症から、わずかな人間が生還し、有効なワクチンが作られた。医療機関・行政の迅速な措置もあり、流行は終息に向かうのだが…。

 新型インフルエンザを巡る騒動は記憶に新しい。パンデミックという言葉も知られるようになった。しかし、井上さんは時事のテーマを取り上げることを意図していない。流行が去った後も病院内で隔離生活を続ける3人。やがて彼らは、「後遺症」として不思議な能力を身につけていることに気づくのだった。その能力というのが…。

 さあ、ここからがホラ話の本番である。3人の能力というのが、ハリウッド映画などにありがちなものばかり。最初は彼ら自身、能力の全容がわかっていない。訓練を積むにつれて、新たな能力が発見されていく。3人はどんどん人類を超越した存在になっていくのだ。その能力のおかげで、3人は警察に追われる身になってしまう。

 しかし、たとえ核兵器でも彼らを倒すのは不可能。すげえや、本当にハリウッド映画だよこりゃ。ホラ話もここまで突き抜ければ一級品。圧倒されるというか、ただただ苦笑するしかない。で、ここまで広げた大風呂敷を、どうやってたたむのだ?

 終盤に至り、最高点まで上り切ったジェットコースターで、一気に垂直に突き落されるような展開が待っていた。ラスト15pの力業をとくと見よ。ここまで好き放題やった結末がこれかよ。半分唸って半分脱力した。リアリティなんぞしゃらくせえ。面白ければ何をやってもいいという姿勢が実に潔い。さて、次回作が読めるのはいつか。



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