井上夢人 14 | ||
ラバー・ソウル |
本作のタイトル『ラバー・ソウル』は、ビートルズの6作目のアルバム『Rubber Soul』から取られている。さらに、各章のタイトルに『Rubber Soul』の収録曲を収録順に用いる徹底ぶり。A面、B面の最後にボーナス・トラックとして収録されている"Day Tripper"と"We Can Work It Out"は、同時期に発売されたシングルである(実際は未収録)。
僕はビートルズファンを自認し、CDはすべて持っている。しかし、歌詞はろくにわかっていないことを、本作を読んで突きつけられた。鈴木誠に鼻で笑われるレベルだろう。本作の各章は、タイトル曲の歌詞を連想させる内容になっているのだ。改めて歌詞を確認すると、男の一方的な恋心や嫉妬、恋人への疑心暗鬼といったテーマが実に多い。
ある事故がきっかけで、鈴木誠は彼女に出会った。人との付き合いを避けて生きてきた彼に、生きがいが生まれた。恋人として付き合うことは決して叶わない。ならば、彼女の守護神になろう…。これだけ言えば、ストーカーものだとわかるだろう。
警察による事情聴取と思われる関係者の証言と、鈴木誠の独白が交互に配置される。読者には最初から事件が見えているため、事情を知らない彼女や関係者が恐怖に襲われる描写は、むしろ凄みを増している。鈴木誠の事務所の様子を想像し、彼の身勝手な理屈にただ戦慄する。IT時代のストーカーは手口も巧妙だ…。
とはいえ、中盤くらいまで読み進むと、やや中だるみを感じた。結局、よく聞く話の域を出ないのではないか? そんな疑問を持ってしまったことを告白しよう。後半に入り、行動がエスカレートしてきて、再び緊迫してきた。彼女や関係者がいつ犯人に気づくのか、どうやって決着するのか。興味はその点に絞られたのだが…。
フェアかアンフェアかと問われれば、間違いなくアンフェアだろう。しかし、最後の"We Can Work It Out"に至り、物語の構造が大きく転換することに驚嘆せざるを得ない。皮肉にすぎる歌詞との対比はどうだ。いや、彼にとっては皮肉ではないのか。
井上夢人名義の最高傑作であることはもちろん、今年のNo.1ミステリーの有力候補に違いない。『Rubber Soul』の魅力を再認識させてくれたことにも感謝したい。