伊坂幸太郎 04 | ||
重力ピエロ |
直木賞候補にもなり、年末ランキングでも上位に食い込んだ本作は、弊サイト掲示板でも話題になっていた。ミーハー読者を自認する僕としては、読むしかないだろう。
で、読み終えたのだが…うーむ、としばし考え込んだ。大傑作かと問われればそこまでは思わないが、面白いは面白い。何とも評価しがたい、不思議な雰囲気を醸し出していた。伊坂幸太郎という作家が、独自の世界を築いているのは確かである。
伊坂さんは僕と出身大学が同じなので、一方的に親近感を感じてしまった。のみならず、本作の舞台は仙台市。仙台人なら噂を知らない人はいないあの橋も登場する。何しろ僕の通学路だったのだ。そんな本質ではないことはさて置き。
本作の魅力を一言で述べると、重くなりがちな内容をあっけらかんと描いていることに尽きるだろう。語り手の家族たちが交わす会話のテンポの良さに負うところが大きい。必要以上に悲壮さを感じさせず、それでいて胸に迫ってくる。
連続放火事件の現場近くに残された落書き。そこから導かれるある規則性。都合がよすぎる語り手の職業。正直強引と言えなくもない。さらにアカデミックな話題が散りばめられるのだが、不思議と嫌味に感じないのは登場人物の、いや作者の人徳か。
色々趣向が凝らされているが、全編を通じて「家族」が重要なキーワードである。クライマックスが近づくほど、やはり家族の物語なのだと強く思う。だからといって固く考えることはない。基本はエンターテイメントだし、読者それぞれの読み方をすればいい。
程よく本格の香りを漂わせた、心地良いとんがり具合とでも言えばいいだろうか。舞城王太郎さんに代表される、近年のメフィスト賞受賞作家のとんがり具合とは対照的だ。換言すればアクがない。もちろん、どちらが正しいということはない。アクのなさは本作のいいところだし、アクがなくなったら舞城作品ではないのだから。
とりあえず、他の作品も読んでみよう。