伊坂幸太郎 05


アヒルと鴨のコインロッカー


2004/09/13

 例によって伊坂作品らしいタイトルの意味を知ったのは、読後のことである。

 本作は、現在と過去―二年前の物語が交互に描かれる。現在と過去が最後に絡み合い、謎が明らかになるという趣向自体は目新しくはない。今をときめく伊坂さんがこの手法をいかに料理するというのか。最初から興味は尽きない。

 現代編の序盤で、書店を襲って広辞苑を奪うという奇妙な計画に荷担させられる大学一年生の椎名。当然ながらその後の展開など予想もつかないのだが、伊坂作品だけに、突拍子もない幕開けにいちいち戸惑っても仕方ないか。

 過去編の序盤で、ある連続事件に関わることになる琴美とブータン人の青年ドルジ。その後の重苦しい展開が展開が容易に予想されて尻込みしてしまうのだが、伊坂作品だけにいちいち立ち止まっても仕方ないか。

 とにかく読み進めてみる。のらりくらりとはぐらかされるような現代編と、じわじわと息苦しくなるような過去編。その都度空気の違いに対応しなければならず、個人的には読み進めるのにエネルギーを要した。伊坂流の文体だからこそ読み通せたと思う。

 二つの物語の鍵を握るのは、長身にして容姿端麗の青年河崎。彼にかかればどんな女性もいちころ。妙な自信に支えられた、いかにも伊坂作品らしい人物。さっぱり読めない発言と行動と意図。そこには確固たる意志が貫かれていたのだ。

 その河崎を始め、主要な人物が不器用というか意地っ張りで、読んでいてじれったいしもどかしい。何となく予想された結末とはいえ、もう少し素直だったら違う結末になったかもしれないのに。そう思うと我がことのように無念さに襲われた。

 基本的には悲しい物語だ。ぶっちゃけた話、ミステリーの大部分は悲劇である。だが、読み終えてみれば悲しい中にもどことなく爽快さが漂う。これこそが伊坂流のミステリーなのだろう。矛盾するようだが、そうとしか僕には言いようがない。



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