伊坂幸太郎 06 | ||
チルドレン |
ようやく断言できる。僕は伊坂幸太郎という作家のファンになった、と。
本作は最高にイカす作品だ。しかし、伊坂作品らしくどこがイケているのか説明するのは難しい。ちっとも難解な作品ではないのに。以下の文章では本作の魅力を伝え切れていないので、実際に読んでいただきたい、と最初に言い訳をしておこう。
主要な登場人物は何人かいるが、全5編に登場を果たすのは陣内ただ一人。陣内の学生時代のエピソードが3編、社会人になってからのエピソードが2編、交互に配置されている。この配置に大きな意味があることに気付いたのは読み終えた後である。
陣内の学生時代に登場する、もう一人の主要人物にして全盲の青年永瀬。オープニングの一編は彼らの出会いのエピソードである。全盲という永瀬の設定もさることながら、このシチュエーションはどうだ。伊坂さんはよほど〇〇〇〇ネタが好きなのか。正直、その後にあまり期待はしていなかった。
ところが、続く表題作「チルドレン」で僕の認識が誤りであることを思い知る。まさかあの陣内が、こんな職業に就いているとは。彼の仕事ぶりを「型破り」と評するのはあまりにも陳腐だろう。圧巻は、学生編を挟んだ後の「チルドレンII」。誰だって格好よく生きたい。正解は一つじゃない。例えばこんな生き方がある。
陣内を「動」とするなら、学生編3編のみ登場する盲目の青年永瀬は「静」。同時に、陣内という人物を語らせるのに彼ほどの適任者はいない。何しろ、陣内は永瀬の盲目というハンデを意に介していない。誰でも平等に自分のペースに巻き込んでしまうのだ。
本作の帯には「短編集のふりをした長編小説です」と書かれている。全編を読み通して、その意味がわかった気がする。例えば、「チルドレンII」は短編として単独で通用するだろう。だが、単独で読んでもちょっといい話で終わっていたのではないか。全編を読み通して初めて、これほどの爽快感が得られるのだと思う。