伊坂幸太郎 10


砂漠


2005/12/12

 今年3作目の新刊にして、区切りの10作目。今回は敢えて「普通」に勝負か。

 大学生活がスタートした春、知り合った5人。言い寄る男たちに目もくれない東堂と、ある特技を持つ無口な南という女性陣。何事も妙に熱く語る西嶋と、何事にも醒めている語り部の北村。そして、北村曰くやませみヘアの鳥井。あるくだらない理由で、中国語と確率の勉強をするため鳥井のマンションに集まった面々。

 1年生の春。2年生の夏。3年生の秋。4年生の冬。本作は、瞬く間に過ぎ行く学生生活のエピソードを描いた純然たる青春小説だ。社会という“砂漠”に囲まれた、学生生活という“オアシス”を通じてかけがえのない仲間になっていく5人。

 随所に「らしさ」を感じるものの、今回は伊坂作品の代名詞であるユーモアやエスプリは控え目(伊坂作品にしては、だが…)。青春とは、大部分を占める他愛のない出来事の積み重ねなんだ。これは5人の青春のほんの1ページ…ではなく1冊。

 まんまと乗せられ引くに引けなくなったある「春」の日。決してほめられたことじゃないけど、こういうムキになる…じゃなくて熱くなることって今はないよね。決定的シーンが目に浮かぶ。よっしゃあああああ! と心の中で快哉を叫んで「夏」へと進んだのだが…。

 若気の至りで済ませてしまうにはあまりにもヘビーな「夏」の展開が、大きく浮いている気がしてならない。当の鳥井は何とか立ち直り、努めて明るく振舞っているものの…。このエピソードがその後の伏線とはいえ、違う演出もあったでしょ伊坂さん。

 それでも全体的には明るいトーンなので何とか救われている。「夏」から一転、嫌な有識者に一杯食わせる「秋」の馬鹿馬鹿しさにすっとする。ここまで長かったよねえ、じれったい「冬」。でも、最後はそこに戻ってしまうんですか…。そして巣立ちの春。

 「夏」のエピソードはマイナスポイントにせざるを得ないが、岩手県出身で仙台の大学に入学という北村と僕との共通点に免じて(?)、相殺するとしよう。



伊坂幸太郎著作リストに戻る