伊坂幸太郎 16


あるキング


2009/08/28

 映画『メジャーリーグ』を覚えているだろうか。弱小球団インディアンズがオーナーの企みに発奮して快進撃を続け、遂にヤンキースとのプレーオフを迎える…という実にベタな内容だったが、理屈抜きで楽しめる娯楽作品だった。

 さて、本作である。主人公は野球選手。所属するのはセ・リーグの超弱小球団・仙醍キングス。というところまでは『メジャーリーグ』に似ている。しかし…困ったことに、読み終えても何一つ訴えるものがない。伊坂幸太郎は、本作で何をしたかったのか。

 万年最下位で5位とも大差がつくのが常という、仙醍キングスの熱烈なファンである山田夫妻。2人は、我が子に「王求(おうく)」と命名した。王が求め、王に求められるように。偶然にも、並べて書くと「球」。仙醍キングス入団のために育てられる王求。

 天才などという表現が物足りないほど、とんでもない王求の能力。小学生時代にプロ投手相手にホームランを打つのは序の口。敬遠ばかりされるので、王求の母は相手チームの監督に金を渡して、勝負してくれるように頼む始末である。プロ入り後も敬遠はしょっちゅうだが、あらゆる打撃記録を塗り替え、打率は9割(!)に迫る。

 そんなイチローが凡才に思えるような主人公であるから、感情移入できるわけもない。王求はほとんど感情を表に出さないのだから。実は、王求は順風満帆にプロ入りしたわけではない。紆余曲折を経ているのだが、心はさっぱり揺さぶられない。

 紆余曲折の詳細を書くことはできないが、両親の王求にかける熱意は異常を通り越している。最初は苦笑で済んでいたが、そこまでやるか…。しかし、すべては仙醍キングス入団のためのお膳立てだったのかも。オーナーの性格まで計算に入っていたりして。

 長編としてはかなり短いが、これ以上長かったら許せなかった違いない。つまらないならまだ評価のしがいがある。どうしちゃったんですか伊坂さん。



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