伊坂幸太郎 19


バイバイ、ブラックバード


2010/07/03

 太宰治の未完の絶筆「グッド・バイ」から想像を膨らませて創った、まったく新しい物語。

 有名なサイト『青空文庫』で読んでみたが、未完に終わった「グッド・バイ」が完成していたら、本作よりずっと面白かっただろう。「グッド・バイ」はいわゆる文豪の作品だが、高尚でも何でもなく、低俗で嫌らしい。それなのに惹きつけられる。

 「グッド・バイ」から想像を膨らませたという本作だが、元々は双葉社の企画「ゆうびん小説」向けに書かれている。5つの短編が、それぞれ50名の読者にのみ郵送されたのだが…正直、各編とも50名に選ばれたという幸運は到底感じられない出来だ。

 5股をかけていた主人公の星野一彦が、〈あのバス〉に乗せられることになった。同行した繭美を結婚相手として紹介し、1人1人に別れを切り出すというパターンである。繭美は本当の結婚相手ではなく、星野の監視役なのだった。

 まず、このだらしない主人公に共感できない。5股をかける割には妙に義理堅いのが中途半端。「グッド・バイ」の田島の方がまだ潔い。5人の女性との出会い方も、以前なら伊坂作品らしいと好意的に受け止めただろうが、何だか計算高いナンパみたいだ。修羅場らしい修羅場もない。どうして5人が5人とも物わかりがいいのだろう。

 そして、繭美というインパクトのあるキャラクター。180cm、180kgという巨体な上に、性格は悪い。5人の女性に嬉々として酷い言葉をぶつける。彼女の辞書に「同情」とか「常識」とかいう言葉はない。というか、実際に黒く塗りつぶされている。その割には星野の酔狂に付き合う一面もあるが、それを考慮しても不愉快さが勝る。

 書き下ろしの最終話VIが、一応顛末を描いているのだが、これならI〜Vまでで終わった方がまし。というより、単行本化を見送った方が、当選した250名にとっては希少価値が上がってよかったのではないか。本作は、「ゆうびん小説」という企画だけが先走って、内容は二の次になっていると言っては厳しすぎるだろうか。



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