伊坂幸太郎 22


仙台ぐらし


2012/02/28

 伊坂幸太郎さんの新刊は、2作連続となるエッセイ集である。前作には手を出さなかったのに、本作を読もうと思ったのには理由がある。本作が、仙台の出版社・荒蝦夷から刊行されたこと。そして、伊坂さん自ら震災について言及していること。

 仙台市在住の伊坂さんは、多くの日本人と同じく、東日本大震災で大きなショックを受け、小説など書いていていいのかと苦悩したという。現在は執筆を再開しているというので、一安心した。読者の僕も、小説など読んでいていいのかと思ったが、結局すぐに読み始めた。気分を紛らわすためでもあったが、結局は読書が好きだからだ。

 「…が多すぎる」というタイトルで統一された最初の10編は、荒蝦夷刊の雑誌「仙台学」に連載されたものである。文章にプロらしい切れがなく、良く言えばほのぼの、悪く言えば素人っぽい。これらを読んで感じたのは、伊坂さんって天然なのかなあということ。天然だからこそ、あのような作品群を生み出せたのか。ところが、そんな中…。

 「心配事が多すぎる」で、宮城県沖地震を心配している箇所がある。あとがきによれば、実際に震災が起き、このまま出していいものか逡巡したようだ。そして震災に関するエッセイが4編。荒蝦夷以外の依頼は極力断ってきたという。これらを収録することにより、本作が震災の本として扱われることに抵抗があったそうだが、掲載して正解だったと思う。

 最後の書き下ろし短編「ブックモービル」は、移動図書館車で被災地を巡回しているボランティアの話である。震災がテーマではあるが、本質ではない。魅力的な人物とテンポの良い会話は、いつも通りの伊坂幸太郎作品だ。その点が何より嬉しかった。

 本作は読み応えのある本ではない。震災に関する本なら他を当たればいい。僕は本作を読んで、作家伊坂幸太郎の現在を確認したかった。そして、歩みを止めていないことがわかった。それで十分だ。近いうちに、また伊坂節が堪能できるだろう。

 昨年5月、作並温泉は普通にもてなしてくれた。いつか峩々温泉にも行ってみたい。



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