伊坂幸太郎 共著2


実験4号


2008/05/14

 「Theピーズ」というバンドを知っていた読者が何人いるだろう。タイトルの『実験4号』とは彼らの曲名である。Theピーズのファンである伊坂幸太郎さんの小説と、山下敦弘さんの映画のコラボ企画。講談社は「最強のコラボレーション」と豪語しているが。

 まずは伊坂幸太郎さんの小説「後藤を待ちながら」。火星に行ってしまったギタリストの後藤の帰りを待つ、残されたメンバーの柴田と桑原。彼らは過去の遺物であるロックンロールを演奏する時代遅れな3人組。彼らから見て100年前の現在でさえ、音楽シーンでいわゆるロックバンドが活躍する余地はほとんどない有様である。

 それでもロックンロールを捨てられず、半年毎の火星からのロケットの到着を待ちわびるのはなぜなのか? 彼らは100年前に存在したバンドのインタビュー記事を発見し、夢中になって読み進める。作中に挿入されたこのインタビューは、Theピーズへの実際のインタビューから引用されているという。見事なまでに伊坂さんの作風にマッチしている。

 続いて映画「It's a small world」。小説でもちょっと触れていた、全校生徒3名の小学校と生徒たち。そのうちの一人、6年生のアビちゃんは卒業後に地球を離れ、火星に旅立つことになっていた。校長兼教諭のシマ子先生や、謎の長髪の用務員。彼らが過ごす、卒業式までの最後の2日間を描くという趣向である。後藤たちは顔を出さない。

 出演は子役3人を含む無名の5人。どこかの校舎を借りてロケをしたのだろうか。温暖化が進んでいる割には寒そうだぞ。近未来を連想させる小道具はほとんどない。一見して低予算であることが明白だ。もちろん、低予算だからつまらないとは限らない。

 出席者に父兄はいない。在校生2名だけの送辞。極めて形式的で、淡々と進む卒業式に何の意味があるのか。それでも、卒業生1名だけの答辞はぐっときた。シマ子先生が地球に留まっている理由など、様々な背景は一切語られないだけに、最後の答辞のシーンのためだけに作られたような作品だ。各自想像してくださいってことか。

 小説の最後に「実験4号」の歌詞が、映画の最後に曲が収録されている。うーん、僕にはよさがわからん。どちらもちょっといい作品ではあるが、2,800円は高いかな。



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