石持浅海 03


水の迷宮


2007/05/15

 石持浅海作品の特徴として、良くも悪くも突っ込みどころが多い点が挙げられる。ロジックについては「穴」がないが、真犯人の動機や行動に突っ込みたくなる。もちろんこれは僕の私見であり、別の読者にとっては感動するところかもしれない。

 そんなひねくれ者の僕には、辻真先さんの文庫版解説は挑発的で興味深い。曰く、ご贔屓探偵が登場する度に、都合よく得体の知れない事件が起きることに、疑念を抱かないのか、原稿用紙400枚前後で、都合よく犯人が尻尾をあらわすミステリを、「甘い」と思わないのか。…論点のすり替えという気もするが、言いたいことはわかる。

 舞台が水族館であるという点が、実は水族館好きの僕にはポイントが高い。羽田国際環境水族館に届いた一通のメールは、展示生物への攻撃を予告するものだった。次々届くメールに奔走する職員たちを嘲笑うかのように、館内で殺人事件が起きた。

 水族館で殺人事件を起こすなよおいっ!…というのはさて置き、読み終えてみて、やっぱり突っ込みたくなったし、帯にあるように「胸を打つ感動」には襲われなかった。一方で、言下に否定する気にもなれなかった。認めたい心情も確かに存在するのである。

 作中、しながわ水族館、サンシャイン国際水族館、葛西臨海水族園といった実在の水族館名が出てくる。舞台となる架空の水族館がこれらと比較して小規模であることと、一度は閉鎖されかけたが関係者の努力で魅力ある水族館に生まれ変わったことが事件の背景にある。いくら僕でも、職員たちの愛着の深さは認めるしかない。

 そうした背景を考慮するとしても、この幕引きは許されるのか。いかにフィクションであっても非現実的すぎる。しかし、謎解きの過程で明らかになる呆れるほど壮大な計画と比較すれば、些細な問題と思えなくもないか。水族館好きですから。

 小さな水族館は、他にない特色を出していかなければ生き残れない。そこで紹介したいのが、山形県鶴岡市にある加茂水族館である。羽田国際環境水族館同様に、ある特色を打ち出すことで苦境を乗り越えた。両水族館の末永い繁栄を祈ろう。



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