石持浅海 05 | ||
扉は閉ざされたまま |
「確信犯」という言葉は、「悪いとわかっていながらする犯罪」という意味に誤用されがちだが、「信念に基づき、自らの行為を正しいと確信してする犯罪」というのが正しい意味である。本作を読み終えて、そんなことをふと思った。そう、これは確信犯だ。
著者の石持浅海さんは、光文社カッパ・ノベルスの新人発掘プロジェクト「カッパ・ワン」の出身である。ノベルスという領域は、メフィスト賞による新人発掘、若年層の取り込みに成功した講談社ノベルスの独壇場が続いているだけに、それが気になる理由の一つだった。それに何より、手軽な長さ。ミーハー読者の僕が食指を動かしたくなるというもの。
成城の高級ペンションに、同窓会のため集まった大学の旧友七人。当日、伏見亮輔は客室での事故を装って後輩の新山を殺害、現場を密室状態とする。すべては計画通りに進むと思われたが…参加者の一人碓氷優佳だけは疑問を抱いていた。
読者には最初から犯人がわかっていて、探偵役が犯人の見落としから徐々に真相を暴いていく。いわゆる倒叙物である。『刑事コロンボ』型とか『古畑任三郎』型と言った方がわかりやすいか。手法自体は何ら新しくはないし、本質でもない。
密室の扉を斧で叩き壊すと、そこには死体が…というのが本格のお約束だが、扉を壊すに壊せないこの絶妙なシチュエーションが第一の読みどころ。どう絶妙かは読んでください。もちろん真犯人伏見の計算のうち。それならばと、優佳はタイトル通り「扉は閉ざされたまま」推理を展開するのだ。二人の頭脳戦の緊迫感が第二の読みどころ。
そして、頭脳戦の末に明らかになる犯行動機が第三の読みどころ。正直、突っ込みたい気がしないでもないが、それはある意味当然だろう。伏見だけの信念に基づいた確信犯なのだから。他人が理解できるかどうかは問題ではないのである。動機の面からも、伏見の行動は理に適っていたのだ。この整合性はお見事と言うしかない。
新たな本格の書き手はまだまだ出現し得る。それにしても、優佳と対等に付き合える男性はいるのだろうか。その点だけは、伏見の気持ちがわかるかも…。