石持浅海 18


リスの窒息


2010/02/10

 今年も早速かっ飛ばしてくれました。石持浅海さんが今回は誘拐ものに挑む。当然、そんじょそこらの凡百の誘拐ものとはわけが違うのだ。

 名門私立中学に通う女子中学生が、狂言誘拐を企てた。身代金の要求先に選ばれたのは、何の関係もない秋津新聞社だった。投稿課に届いた1通のメールが巨大新聞社を揺るがし、前代未聞の攻防戦開始のゴングが鳴った…。

 わははははは、本当に前代未聞だ。狂言誘拐は現実にも耳にするが、犯人が女子中学生ですぜ。しかも、狂言かどうかに関わらず、誘拐というのは人質の関係者に身代金を要求するものだ。それなのに新聞社に要求した理由とは…。

 素早く計画を立案し、沈着冷静に実行に移す犯人。これだけでも突っ込みどころ満載なのに、女子中学生に完全に手玉に取られる秋津新聞社。いくら過去の汚点があったとはいえ、天下の全国紙でしょうが。対応にもたつく間に、外堀は着々と埋められる。

 秋津新聞社の社内事情が事態をややこしくしているのがポイント。アクセントにちょっとした修羅場の演出も忘れない。無理矢理すぎるって? 石持作品ではこの程度を無理とは言わないのさ(本当か?)。さあ行け行けどんどん。

 画像付きメールで揺さぶりをかける小憎らしい犯人。嗚呼、またそういう方向に行っちゃいますか…。これ以上進んだら、石持作品の読者であることを考え直そうかと思った。このさじ加減の絶妙さ(本当か?)。さあラストスパートだ。

 やがて、読者の興味は1点に絞られるだろう。どうやって身代金を受け取るのか? うわあっ、まさかこんな手が??? てさ、さすがにそれはどうなの…。

 とうとう全編が突っ込みどころという境地に達した、孤高の本格作家石持浅海。いささかわかりにくいタイトルまでも突っ込みどころの1つ。色々と報道のあり方が問われている昨今に、石持浅海が叩き付けた問題作を、しかと受け止めよ。



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