石持浅海 19


攪乱者


2010/04/20

 毎回突っ込みどころにばかり着目し、石持浅海作品の真面目な読者とは言えない僕。今回も手ぐすね引いて読み始めたわけだが、久々に感心されられた(失礼)。

 今回のテーマはテロ。テロといえば、地下鉄サリン事件、9.11、毎日のように起きる自爆テロなど、一般市民の犠牲を厭わない無差別テロを指すと思いがちだ。だが、テロの本質とは、人々に不安を、現体制への不信感を抱かせることにある。

 コードネーム『久米』『輪島』『宮古』を名乗る3人は、無血テロを標榜する組織の一員である。「細胞」である彼らに求められるのは、与えられた任務を忠実に遂行すること。用意されたレモンをスーパーのレモン売り場に置いてくるなど、一見奇妙な任務の目的は知らされない。とはいえ、テロ組織の一員とて人間である。真意を知りたくなるのが人情。

 爆弾テロなどと比較すれば、本作に描かれた1つ1つの任務は、一見とてもちゃちに思える。だが、その裏に込められた悪意の大きさに、読者は戦慄するだろう。誰にでもできそうなことばかりなだけに。最後の任務なんて具体名を挙げているが、真似されたらどうするんだ? 思わず「〇〇〇〇」でググってしまった。

 無血テロなどと言っているが、3人が任務を遂行することにより、誰かが傷つく。血を流さなければ無血テロなのか? 理屈が勝手という点では、爆弾テロと何ら変わらない。だから、これはやはりテロだ。3人ともテロリストであることを自覚している。

 しかし、彼らは情を捨てられなかった。詳しくは書けないが、任務との狭間で揺れ動く3人。「細胞」としてはあまりにも優秀すぎた彼らが、招いた結果の皮肉はどうだ。この結末については色々と深読みができる。そのそも、あの男の目的とは…いや、それも想像に過ぎない。あの男もまた、あくまで組織の駒なのかもしれないのだから。

 今回ばかりは突っ込むのはやめておこう。政権交代以降、政局が波乱含みなだけに、笑い流す気にはなれない。本作をものにした石持さんに、心から拍手を送ろう。ただ、あとがきについて一言。誰も〇〇〇だなんて思わないってば…。



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