石持浅海 29 | ||
フライ・バイ・ワイヤ |
石持浅海さんの新刊は、学園ミステリにして近未来SFだ。設定を聞いただけでわくわくしながら刊行を待っていた。え? 嘘つくなって? 本当ですってば。
主人公の宮野隆也が通うさいたま工科大学附属高校の選抜クラスに、転校生としてやって来たのは二足歩行ロボットだった。病気で学校に来られない一ノ瀬梨香という少女に代わり、遠隔操作で動くロボットを登校させる実験だという。
ASIMOよりはるかに進んだロボット技術。クラスメートと同様に授業を受け、会話もできる。隆也たちは戸惑いながらも徐々に受け入れる。エリート校の中でも選りすぐったクラスだけに、最新技術への興味が深く、親和性も高いのだろう。
ところが、このロボット…いや、一ノ瀬梨香の周囲で殺人事件が相次ぐ。「彼女」が犯人というわけではないが、事件に関係していることは事実。「彼女」の存在が、選抜クラスに不協和音をもたらした。クラス委員として「彼女」をサポートしてきた隆也は苦悩する…。
うーむ…どうして最初の事件後に実験を中止しなかったのか。その時点で、「彼女」にはある程度構図が見えていたのか。そう、本作にトリックの要素は皆無で、事件の構図こそが問題なのだが、相変わらず共感できるようなできないような、微妙な動機だなあ。
時代が現代だろうが近未来だろうが、そしてどんな設定だろうが、石持浅海はぶれない。読み解く鍵は、ここが選抜クラスであること、とだけ言っておこう。次代を担う技術者・研究者の卵だけに、こんな実験をしてみたくなったのかねえ。
ミステリ性に期待するより、最初から近未来SFとして読んだ方が楽しめるかもしれない。どちらかといえば、事件そのものより、最後の真相の方に唸らされた。なるほど、それは説明に困る。どこかで見たような気がしないでもないが。
来年も石持浅海から目が離せない。