石持浅海 33 | ||
三階に止まる |
意外なことに、連作ではない短編集は初か。長さもテーマもバラバラな作品が並んでいるが、クオリティが実に高い。孤高の作家石持浅海の底力を感じた。
「宙(そら)の鳥籠」。タイトル通り、舞台は観覧車のゴンドラの中。一周する間の勝負。男はプロポーズに成功するかっ!? 例えばみなとみらいでこんな話をするカップルはいないだろう。女心は難しいとだけ書いておきましょう。男も悪いですよ、はい。
「転校」。成績不振者は容赦なく切り捨てられる、超エリート校の実態とは。結末の嫌な余韻に注目したい。ある重鎮のある短編を彷彿とさせる…。
「壁の穴」。体育倉庫で死んでいた男子生徒は、壁の穴から女子更衣室を覗いていたところを襲われたらしい。殺された上に人格が地に落ちた彼を救ったのは…。警察はちゃんと気づいていたが、見上げた思考力と友情ではないか。彼の成仏を願う。
アンソロジーのために書かれた「院長室 EDS 緊急推理解決院」。警察も一目置くEDSという設定は絵空事だし、ある作家のキャラクターがゲスト出演したりするが、内容は硬派な本格だし、描かれた事件は絵空事と流せない。見事な探偵魂だった。
「ご自由にお使いください」と言われても困るよなこれ…。刑事の洞察力が多数の命を救った。10pに満たないが切れ味抜群の1編。こちらも短い「心中少女」。ネットで知り合った2人が、心中するために工場跡に来てみると…。結局そうなるのか…。
「黒い方程式」。石持さんご自身のある作品との繋がりを一瞬想像したが、方法論からして違うかな? それはともかく、そんなもん家に置いておくなあぁぁぁぁぁっ!!!!! 結果を覆しようがないだけに、謎というより、結末の皮肉が読みどころか。
最後の表題作「三階に止まる」は、大変内容が説明しにくい。どちらかというとジャンルはあっちか。本格との融合に挑んだ意欲作で、石持流本格のさらなる進化を予感させる。これからも石持浅海を追いかけ続けると、僕は固く誓ったのだった。