海堂 尊 01


チーム・バチスタの栄光


2008/05/12
2008/05/22 訂正

 受賞時のタイトルは『チーム・バチスタの崩壊』だったという。『このミステリーがすごい!』大賞の価値を上げるのに大きく貢献した、海堂尊さんのデビュー作品である。

 東城大学医学部付属病院は、米国から心臓移植の権威である桐生恭一を招聘した。桐生を中心に、心臓移植の代替手術であるバチスタ手術を専門に扱う「チーム・バチスタ」が構成される。チーム結成以降、極めて難易度の高いバチスタ手術で成功率100%を誇り、マスコミも華々しく報道する。ところが、3例立て続けに術中死が発生した。

 院長の高階が内部調査のために白羽の矢を立てたのは、外科からは縁遠い日陰者の田口公平。なぜ俺に? それでも彼は、過去のバチスタ手術のカルテの閲覧、チーム・バチスタのメンバーへのヒアリングに着手する。患者は調査の進展を待ってはくれない。田口自身もバチスタ手術に立ち会うのだが、手がかりは一向に掴めない。

 と、文庫版上巻までは硬派な医療サスペンスの色合いが濃い。ところが、下巻に入ってすぐに、厚生労働省の役人白鳥圭輔が登場すると……。

 確かに強烈な印象は残すのだが、あまりにエキセントリックすぎて正直戸惑った。白鳥が実践する調査法「アクティブ・フェーズ」(海堂さん曰くでっちあげだそうだが)とは、要するにいきなり危険球を投げて相手を怒らせるだけ。読めない意図。ところが、桐生との対面に至り、白鳥の抜け目のなさが明らかになる。今頃こんな秘密を明かすなよ。

 トリック(なのか?)については、医療現場を知らない大多数の読者にはピンとこないだろう。だが、トリックを成立させたのはいわば「心理的な密室」である点に注目したい。Aiという普及していない技法を作中で用いた裏には、日本の医療に対する海堂さんの懸念がある。海堂さんの提言は『死因不明社会』(講談社ブルーバックス)にまとめられている。

 漫画やドラマの影響で、桐生のようにメスを握る医師こそ花形というイメージがあると思う。しかし、手術は執刀医だけではできない。なお、立場こそ違うが、法医学者の上野正彦氏が海堂さんとまったく同じ懸念を示していたことを追記しておきたい。



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