海堂 尊 03


螺鈿迷宮


2008/11/30

 田口・白鳥シリーズが2作続いた後の、海堂尊さんの第3作。海堂さんの作品群は、同じ街や病院や大学を舞台として繋がりを持つなど、〈桜宮サーガ〉とでも呼ぶべき世界を形成しているという。本作は、シリーズ本編とどのように繋がっているのだろうか。

 バチスタ・スキャンダルから1年半。東城大学医学部の落第生・天馬大吉は、幼なじみの新聞記者・別宮葉子から、碧翠院桜宮病院への潜入取材を依頼される。東城大学医学部付属病院と同じ桜宮市にあるこの病院には、黒い噂が絶えなかったのだ。

 最初は依頼を断った大吉だが、葉子にまんまとはめられる。自業自得ではあるのだが、仮にも新聞記者がこんな強引な手に打って出ていいのか。主人公の大吉は、その名と裏腹な不運の持ち主。本人曰く、アンラッキー・トルネード。不運さを物語るエピソードの数々は作りすぎだろう。彼は潜入後も不運ぶり発揮する。序盤から呆れてしまった。

 シリーズ番外編に当たる本作だが、やがて大吉の前に皮膚科の医師として現れたその男は…白鳥じゃないか。医師免許を持っているのは知らなかった。そして、やっと思い出した。最初の2作では名前しか出てこなかった人物が、初登場していたのだった。

 現実離れした碧翠院桜宮病院の設定といい、前作以上にエンターテイメントに走りすぎな一方、終末期医療という硬派なテーマを扱っている。院長の桜宮巌男と、娘のすみれ、小百合。彼らの主義主張やビジネスモデルに100%共感はしないが、100%否定もできない自分がいる。巌男たち一族が、桜宮の闇を担ってきたのは確かだからだ。

 相次ぐ死と向き合い、動揺する大吉。本作に大吉の成長記という側面があることは見逃せない。後期高齢者医療制度が問題となる現代に、今回も投げかけられる現代医療批判。自分の老後など今は想像できないが、いつまでも目を逸らしてもいられない。

 それにしても、ハリウッド映画的クライマックスはやっぱりやりすぎだ。単独作品として読めなくもないが、最初の2作を知っていないと楽しめない点は多い。固定ファンは嬉しいだろうけど、〈桜宮サーガ〉は一見さんには優しくないかもしれない。



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