海堂 尊 11


イノセント・ゲリラの祝祭


2010/02/22

 田口・白鳥シリーズ第4作に至り、エンターテイメント色は一掃された。始めにお断りしておきたい。本作は限りなくノンフィクションに近いフィクションだ。

 講談社ブルーバックスから刊行された、『死因不明社会 Aiが拓く新しい医療』も併せて読むと興味深い。というより、本作の内容は『死因不明社会』そのもの。講談社ブルーバックスを手に取る読者は少ないだろうから、小説に形を変えたと考えればいい。

 不定愁訴外来の万年講師にしてリスクマネジメント委員会委員長の田口公平が、白鳥から医療関連死に関する会議への出席依頼を受ける。渋々霞ヶ関は厚生労働省まで出張した田口だったが、出席を重ねるにつれて、会議のあり方に疑問を抱くようになる。

 冒頭に描かれる新興宗教団体によるリンチ殺人事件は、文庫版解説にもある通り、大相撲時津風部屋の事件を意識したものだろう。会議の前夜、いきなり変死体に出くわす田口。そこが東京23区内か、神奈川県かで異状死に対する対応は大きく違う。序盤から「死因不明社会」日本の現状を読者に端的に突きつけ、本題に入っていく。

 本作の主な舞台は、厚生労働省の会議室である。病理医と法医学者。司法と医療。医療事故の被害者と加害者。そこには様々な利害の対立構造があるが、すべて官僚の計算通り。将来の事務次官候補と目される、ミスター厚生労働省こと八神を始め、官僚たちの人物造形はやや極端だが、あながち嘘でもないように思える。

 実は今回の主役は田口でも白鳥でもない。その男は官僚の与り知らぬところで動いていた。彼が理路整然とエーアイの必要性を主張し、官僚もろとも反対勢力をねじ伏せていくシーンは圧巻に尽きる。一方でいつもおちゃらけている白鳥はおとなしい。それもそのはず、白鳥もまた、機が熟するのを虎視眈々と待っていたのだった。

 本作こそ、本当に海堂尊さんが書きたい作品だったのではないか。時にテーマが分散しがちな海堂作品だが、本作における主張は一貫している。それはエーアイの普及だ。読者には、海堂さんの熱い思いを受け止める覚悟が求められる。

 与党よ野党よ。「政治とカネ」問題より、これこそはるかに重要な問題ではないか。



海堂尊著作リストに戻る