海堂 尊 16 | ||
マドンナ・ヴェルデ |
毎回、日本の医療に疑問を投げかける海堂尊作品だが、今回のテーマは何と代理出産である。2008年4月の日本学術会議の提言によると、
などとされている。本作に登場する帝華大の産科医曾根崎理恵は、この提言を医学的に非常識だと切り捨てる。理恵の見解が、そのまま代理出産に関する海堂さんの見解なのかはわからない。正直なところ、日本学術会議の懸念も理解できる。
理恵は、50代後半の実母みどりに代理出産を依頼する。理恵自身が子供を産めない事情を考慮しても、実母に危険性の高い高齢出産を強いるのは大いに疑問である。もちろん密かに実施することになる。みどりは娘の願いを聞き入れたのだが…。
お腹にいるのは実の孫か実の子か。次第に疑念が湧いてくるみどり。生まれてくる子を、このまま理恵に渡していいものか。そんなみどりを、半ば脅迫する悪魔的な理恵。ここに書くのもはばかられる四文字を投げつけて。海堂作品には色々な医師が登場したが、理恵ほど共感できない医師はいない。もはやみどりに逆転の芽はないのか?
みどりと理恵の母娘闘争だけでもずっしりと重いが、みどりが産科医院で一緒になった20歳のユミの事情が、さらに影を落とす。ユミの決断に口を挟むことはできない。無理矢理きれいに終わらせたような結末だが、感動には程遠い。
先の提言は、代理出産について含みを残していることを付け加えておこう。果たして代理出産は処方箋になり得るのか否か…。