海堂 尊 21


ナニワ・モンスター


2011/05/11

 海堂エンターテイメントの新章、壮大に開幕! などとぶち上げているが、読んでみれば桜宮サーガの一部であった。…まあ、壮大であることだけは認めましょう。

 新型インフルエンザ「キャメル」の国内感染を水際で防ぐ対策が講じられる中、関西最大の都市・浪速で「キャメル」の発生が確認された。患者に海外渡航歴はなかった。浪速府は風評被害や経済封鎖により壊滅的打撃を受ける。ナニワの風雲児・村雨府知事は、この危機を打開できるのか? 彼の傍らにいるその「男」は…。

 ほう、今回のテーマはパンデミックか。浪速府のモデルは大阪府に他ならない。約2年前の新型インフルエンザによるパニックは記憶に新しい。国内ではまず関西圏で感染が拡大したため、実際に大きな打撃を受けた。マスクが品薄になったり、家族がインフルエンザにかかると出社停止になったりしたが、いつの間にやら有耶無耶に収束していた。

 現実に起きたパニックをネタに、どんな問題を提起するのだ? ところが、パニックの裏にはある霞が関の陰謀が隠されていた。その陰謀とは…。

 本作は第三部まであるが、パンデミック対策は第一部でほぼ終わってしまう。じゃあこの先はどうなるんだよ、おい。第二部に入ると、時間が1年前にさかのぼり、霞が関がパニックを扇動するに至った経緯が描かれる。登場するのは検察官や官僚ばかり。白鳥がちょっとだけ顔を見せるが。海堂さんは本当に官僚がお嫌いなようで…。

 再び時間が戻って第三部。あの「男」に伴われ、視察に出かける村雨府知事。村雨府知事の真の目的や、あの「男」の構想がついに明らかに。改革派で鳴る大阪府の橋下徹府知事も、ここまでは考えていないだろうよ。考えていても公表できんわ。

 てっきりパンデミックというテーマを掘り下げるのかと思っていたが、ここまで話が大きくなると戸惑うしかない。本作はもはや医学小説ではない。前提に医療問題があるとしても、本作は政治小説だ。海堂さんご自身の思想が、色濃く反映されているのだろうか?

 毎回毎回、尻切れトンボで思わせぶりな終わり方もどうにかしてほしいな…。



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