海堂 尊 22


極北ラプソディ


2011/12/14

 前作『極北クレイマー』から約2年半ぶりの続編である。『極北クレイマー』には辛辣な感想を書いたが、今から思えば序章でしかなかったのだ。

 極北市民病院の新院長として赴任した東城大出身の世良。最初は救世主と持ち上げられたが、救急患者の受け入れ拒否、入院病棟閉鎖、人員削減、薬剤費抑制と徹底した結果、常勤医は世良と今中のみに。世良の言い分は正論だが、割り切れない今中。

 一方、残った看護師で訪問看護を実施する。世良には何か算段があるのか? 今中にも読者にもわからない。ある日、診療費を滞納していた男性の診療を断ったところ、男性は2時間後に路上で倒れ、死亡。メディアはここぞとばかりに世良を叩く。

 若かりし頃は、渡海や天城といった型破りだが腕は立つ医師に薫陶を受けた世良。白鳥並に弁が立つし、主張にもぶれがない。黙っているだけでなく、反論会見をネット配信したりする。そんな中、今中を極北救急救命センターに派遣するというのだが…。

 隣の雪見市にある極北救急救命センターは、ドクターヘリを備えるなど医療体制が充実している。極北市とのあまりの落差に愕然とする今中。そしてここには、ジェネラル・ルージュ速水がいた。極北救急救命センターを舞台にした中盤は、ここだけ独立させてもいいくらい読み応えがある。速水の大暴走にはハリウッド映画もびっくり。

 優秀で気概あるスタッフに混じり、久しぶりに医師らしく働く日々。これが今中が望んだことだったはず。それなのに、やっぱり割り切れないのはなぜだ。今中がわずか半月で極北市民病院に戻ることになった経緯は、読んでください。

 終盤になると、また政治的な話になったり、例によってあっちこっちと繋がっていたりするが、世良が本心を吐露するのが読みどころ。強がっていただけで、内面は繊細なのだ。世良が第二の故郷と言い切る地に、医療の原点があった。恩人の言葉が身に染みる。そして…えぇぇぇぇぇ!!!!! 何それ? 聞いていたのと違うんですけど?

 桜宮サーガにしてはきれいにまとまったねえ。この続きは書かれるのか、読者の想像に任せるのか。で、あの件については別の作品になるんですか…。



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