金城一紀 05


SPEED


2005/07/11

 前作刊行から既に2年以上経過。金城さんの著作のうち、オチコボレ集団「ゾンビーズ」のシリーズが角川書店から新装刊行された。ようやく刊行されたゾンビーズ・シリーズ最新刊も角川書店から。どうやら版元が移ったようだが、何はともあれ喜ばしいことである。

 (例によって)聖和女学院に通う真面目で平凡な高校生、岡本佳奈子16歳。家庭教師の彩子さんが謎の自殺を遂げる。納得できない彼女の前に偶然現れたのは、ザ・ゾンビーズ。憎き敵を相手に、生まれて初めての冒険が始まった。

 今回は、前作には登場しなかった「アギー」こと佐藤健の活躍が大きい。その類い稀な容貌を武器に、次々と証言を引き出す。まあその、ちょっとしたジェームズ・ボンドというか…。しかし、低予算の国立大で大学祭スタッフをしていた自分には縁のない話だなこりゃ。

 調査の過程で浮かび上がる、永正大学学園祭の舞台裏。敵の陰謀は学内に留まらず、政治の話にまで及ぶのだが、妙に話が大きくなりすぎて「らしく」ないなあ。それが偽らざる感想だ。『フライ,ダディ,フライ』が愛する人を守るという胸打つ作品だっただけに。

 朴舜臣からボクシングのワンツーの手ほどきを受ける佳奈子。前作では47歳の中年男相手に容赦ない鬼コーチぶりだった。だから男同士通じるものもあったし、ぐっときた。さすがに今回は遠慮を感じるなあ。早朝トレーニングまでする佳奈子には申し訳ないのだが。

 それにしてもだ、壮大な野望を抱いているくせして首謀者の最後の情けないこと。分不相応な野望だったってことか。おかげで『フライ,ダディ,フライ』ほどの爽快感がない。これじゃまるでス…以下自粛。舜臣は不死身かよおい。

 騒ぎの後にはお互いきっぱりと関わりを絶つ佳奈子とゾンビーズ。そこが潔いところだがしんみりしてしまう。住む世界は違うけど、踏み出した第一歩はきっと財産になるだろう。

 まさかこのシリーズ一本で勝負するということはないだろうが、インターバルが長すぎた点は否めない。間隔が空くほど読者は焦らされ、期待も大きく膨らむ。期待が大きい分だけ求めるものも高くなるのだ。金城一紀はもっとできる。ごめんね文句ばっかりで。



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