加納朋子 03 | ||
掌の中の小鳥 |
女性のバーテンダー泉さんが切り盛りする店、〈エッグ・スタンド〉。この店の常連である、若いカップル。二人が披露する謎めいた話の数々。本作は、北村薫さんの「円紫師匠と私」シリーズにも通ずる、日常の謎を描いた連作短編集だ。
最初の表題作「掌の中の小鳥」は、素直にやられましたと言っておこう。冬城圭介と、この時点では名が明かされない彼女。二人が出会う、全編のプロローグ的な一作だが、それぞれの過去が語られ、しかもしっかりと謎解きになっているところが心憎い。
そのまま「桜月夜」に続くが、まだ彼女の名前を教えてもらえない圭介。〈エッグ・スタンド〉で彼女が披露したエピソードが、同時に名前のヒントになっている。何とも凝った自己紹介だが、解いてしまう圭介も圭介だな…。彼女の話に登場する武史少年が、鮮烈な印象を残す。これまたうまい。
「自転車泥棒」は、話のメインになるのは文字通り自転車泥棒なのだが…出来すぎかなあ、これは。傘泥棒に関する圭介の洞察は興味深い。自転車泥棒君といい、いずれも悪気がないところに逆に薄ら寒さを覚える。おいおい、それはいかんだろ。
「できない相談」では現在の武史が登場するが、大人になっても相変わらず食えない男である。武史を主人公にしてシリーズ化するのも面白いんじゃないか。
最後を飾る「エッグスタンド」は、正直なところ色々と疑問が残った。僕が男性であることを差し引いても、烏賀原みちるの行動はやはり理解しがたい。自分が人間として欠陥品なんじゃないか、と圭介は言う。僕には十分すぎるくらいできた人間に思えるのだが。大体、完璧な人間なんぞこの世にいるんだろうか?
「円紫師匠と私」シリーズよりは入り易かったと思うが…泉さんの言動にかなりカチンときたことは告白しなければならない。それだけ痛いところを突かれたということか、あるいは僕に何かが欠けているのか。まあ、ショック療法なんだろうけど。