加納朋子 04


いちばん初めにあった海


2005/11/21

 全二編。作品集としては一見中途半端に思える。ところが、やはり連作短編集の名手、加納朋子。本作においても、その手腕にやはり唸らされたのである。

 周囲の騒音に嫌気がさし、引越しの準備を始めた堀井千波が見つけた一冊の本。タイトルは『いちばん初めにあった海』。読んだ覚えがない本のページをめくると、やはり心当たりのない人物からの手紙が挟まれていた。私も人を殺したことがあるから…。

 という表題作。いわゆる記憶喪失ものである。心に傷を負った女性たちの再生の物語。裏表紙のあらすじを読んだだけでも僕の苦手分野らしい雰囲気が漂ってくる。案の定、封印していた悲しい事実が明らかになるのだが、実は希望の灯が残されていた。ラストシーンには柄にもなくぐっときたが…あれ、こっちの謎はどうなるの?

 最初は別の話だと思っていたもう一編の「化石の樹」。定職に就かない青年が、恋人らしき女性に語った話。彼はバイト先の植木屋の親方から、一冊のノートを託される。そのノートは、樹齢七百年以上という金木犀の老木に空いた「うろ」の中から見つかったという。

 手記の形をとっていたノートの内容は、ある極めて現代的なテーマをはらんでいる。しかし、手記の作者は誤解していた。青年は手記の誤解と同時に、恋人を長年苛んできた苦しみを取り除いてみせるのだ。くー憎いよこのこの。うーん、いい話なんだけど…。

 あれ、もしかして最初の話とこういう風に繋がっているのか? おおなるほど、こうして最初の話に残された謎も解けるのか! それぞれ単独ではいい話止まりの二つの物語は、両方読み終えて初めて関連が明らかになる。名手加納朋子の面目躍如だろう。

 ということに僕が気付いたのは、解説を読んでからであることを白状しておこう。偉そうなことを書いているが、実際には個々の物語もよく練られている。各編の構成力。作品集としての構成力。そして散りばめられた謎。素直に感動するあなたは正しい。



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