加納朋子 05


ガラスの麒麟


2001/05/15

 女性作家ももっと読まなきゃなあと思いつつさっぱり読んでいなかったが、ようやく三人目となる加納朋子さんの作品を手に取った。

 本作は、6編から成る連作短編集である。美しく、かつ聡明で、同級生たちの幸せの象徴だった女子高生、安藤麻衣子。そんな彼女が通り魔に襲われ、わずか17歳でこの世を去った。一見幸せを絵に描いたような麻衣子の、内面の闇とは…。

 最初の表題作「ガラスの麒麟」であっけなく死んでしまった麻衣子が、他の作品にも影を落としているのがポイントだ。それぞれのエピソードから、それぞれの麻衣子の顔が浮かび上がる。どの顔が本当の麻衣子なのか、という問いは意味を持たない。あの顔も、この顔も、すべてが麻衣子の顔。

 また、探偵役である養護教諭の神野先生。いわば駆け込み寺の主として、多くの女子高生たちを見つめてきた。しかし、そんな神野先生とて全知全能の神にあらず。作中最も長い最終話「お終いのネメゲトサウルス」に至ると、彼女はもはや探偵役ではない。女子高生たちと何ら変わらない危うさ。加納さんのうまさが光る。

 本作を最後まで読み終えても、麻衣子の、神野先生の、犯人の、そして関係者たちの内面がすべて明かされるわけではない。だが、それでいい。だからこそ、彼らの危うく脆い心のバランスが際立つ。本作を評して心理描写が弱いという人がいるとすれば、それは違うと言うしかない。文章ですべてを伝えられるほど、心は単純ではないのだから。

 街を闊歩する高校生たちを見る目が、多少変わったような気がする。一見我が世の春を謳歌しているような若者たちに問いたい。なあ、君たちは幸せかい? と。

 最語に、叶わぬ希望とは知りつつ加納さんにお願いしたい。作中作として挿入された安藤麻衣子作『ガラスの麒麟』、『お終いのネメゲトサウルス』を、是非完成形にしてほしい。野間のイラスト付きなら、本気で買うかも。



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