加納朋子 07


沙羅は和子の名を呼ぶ


2008/11/25

 加納作品には珍しい、連作ではない短編集である。実は再読なのだが、最初に読んだときはあまり印象に残らなかった。ファンタジーの要素を含んだミステリーなのか、ミステリーの要素を含んだファンタジーなのか、どちらとも言えるしどちらとも言えない。

 「黒いベールの貴婦人」における、絡み合う合理性と非合理性。少年患者の急死により医療ミスの疑いをかけられ、廃業に追い込まれた病院。出没する少女。やがて明らかになる少年の死の真相とは。実際にこういう事例があるのだろうか。

 「エンジェル・ムーン」における、絡み合う現在と過去。この店には是非行ってみたい。「フリージング・サマー」における…やめておこう。ここまで手間をかけるか。

 タイの首都バンコクとは、主に外国人が使う通称で、地元では「天使の都」と呼ばれるという。なるほど、こんな話も何となく許せてしまう? 本作の一押しにして、色々と考えされられる「海を見にいく日」。現代人が失った、他人を思い遣る心がここにある。

 掌編が2編。『日本昔ばなし』にでもありそうな「橘の宿」。市原悦子のナレーションでどうぞ。乃南アサさんにも同タイトルの作品があった「花盗人」。乃南作品と違い、ちょっと心温まる話…なのか? 『生活笑百科』にでも相談してみたい。

 商店街活性化のヒントがここにある(嘘)、「商店街の夜」。昼でもシャッターが下りたままの商店街が多いことよ。読者の立場では気持ちよくない騙され方、「オレンジの半分」。自分が同じことされたらもっと怒ると思うぞ。いい話で終わらせるなよ。

 最も長い(といっても76pだが)表題作「沙羅は和子の名を呼ぶ」。パラドックス云々は軽く無視した意欲作だが、長編にまで膨らませるのは苦しいかな。内容はタイトルの不思議な音感ほど印象に残らないが、あの超有名娯楽大作を連想させる。

 加納さんの実力の片鱗が感じられるものの、再読してもやっぱり地味だった。



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