加納朋子 08


螺旋階段のアリス


2011/10/14

 今年は今のところ加納朋子さんの新刊が出ていない。このまま出ないのだろうか? というわけで、何となく未読になっていた本作を手に取った。

 大企業のサラリーマンから私立探偵に転身するも、毎日事務所で暇を持て余していた仁木順平。ある日突然、謎めいた美少女・安梨沙が現れた。チラシを見たというのだが…。この安梨沙が探偵役なのかと思ったら、必ずしもそうではない。

 「螺旋階段のアリス」。同居したまま結婚と離婚を繰り返す夫婦(?)。ところが、離婚中に夫(?)が死亡。財産分与をしていなかった妻は困り果て…。謎そのものは他愛ないが、結末のひねりはうまい。これも愛の形? 「裏窓のアリス」。浮気していないことを証明してくれという妙な依頼の裏には…。うーむ、色々悪用できそうだな、これ…。

 「中庭のアリス」。行方不明の愛犬を探してほしいというマダム。邪推が外れて明らかになったのは…。これはこれで幸せの形? 「地下室のアリス」。元勤務先の地下室に久しぶりに足を踏み入れた仁木。どこの企業にも似たような話はありそうだな。そのときあなたならどうする? しかし、タイトルとは裏腹に安梨沙は地下室に入っていない。

 「最上階のアリス」。多くの人には特に影響はないだろう。しかし、ある人には…。これは悪意なのか愛なのか? 実際にこういう場所があるなら恐ろしい。「子供部屋のアリス」。ベビーシッターを請け負う2人。条件は申し分ないが、この子は誰? 探偵としてあるまじき行動だが、好奇心には勝てない。心の問題に正解はない。

 最後の「アリスのいない部屋」で流れがガラリと変わり、安梨沙が失踪してしまう。ここまであまり語られなかった、仁木と安梨沙の家庭事情は興味深いのだが、短編にまとめるには中途半端だったかな。いまひとつ飲み込めないまま終わってしまった。

 加納さんお得意の日常の謎なのだろうが、心温まるような話はほとんどない。なめてかかっていた分だけ印象深い作品集だ。『不思議の国のアリス』のキャラクターになぞらえるという趣向はよくわからなかったが、続編も読んでみよう。



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