加納朋子 11


コッペリア


2003/07/13

 加納朋子さんの初の長編作品である。どちらかというとほんわかとした作風の加納さんが、今回はサスペンスタッチの作品に挑んでいる。

 本作のテーマは人形。希代の人形作家如月まゆらが生み出す人形は、見る人すべてが憑かれるほどの凄みを持っていた。一人の女優に生き写しのある人形。人形作家と女優のパトロンたち。物語は人形を中心に展開していく。

 主人公は人形だと言い切ってもいい。憑かれた人間たちは人形を中心に躍るだけ。屈折した登場人物たちが織りなす、倒錯した作品世界はなかなかの読み応えだ。こういうこともできるんだと思う一方、これまでの加納作品に通じるものも同時に感じる。帯に書いてある「新境地」などという常套句は安易ではないか。

 こうした作品世界とは別に、興味深いのは二つの試みだ。どんな試みかは一切触れられないのが困ったところ。第一の試みは…人形作家如月まゆらの妄念のなせる技とでも言っておくか。十分にネタばれだな…。

 第二の試みは特に新しくはないし、繰り返し用いられている手法でもある。だが、それが悪いわけではない。僕は繰り返し騙されてきたのだから。僕は騙されることをむしろ喜びと思っているし(負け惜しみともいう)。

 残念だったのは、二つの試みがもたらす驚きや切れ味が今一つだったことだ。第三章が延々と説明に費やされ、冗長な印象を受けてしまうのが一因だろう。それほど複雑な構造ではないのだが、瞬間的に理解できるほど単純でもない。説明が簡潔であればあるほど、読者の驚きは大きくなるのだから。

 それでも僕は本作を読んでよかったと思う。これまでも本格の香りがする作品を書いてきた加納さんだが、加納さんには本格の血が流れていることを改めて実感できたのだから。何しろ加納さんの夫は…。これは完全にネタばれだな。



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