加納朋子 15


モノレールねこ


2006/12/14

 読書人にはそれぞれの嗜好があり、苦手な作風もあるだろう。自分にとって、加納朋子さんの作風は苦手な部類に入ると思う。実際、いい話すぎると感じたことは数多いのだが、それでも新刊が出れば読んでいるのはなぜなのかと考えてみる。

 僕は根がへそ曲がりなので、作者が泣かせよう泣かせようとあの手この手を繰り出すほど、どんどん醒めていく。加納作品のすごさは、決して感動を煽りすぎず、この僕でも「しょうがないなあ」と和まされるさじ加減にあるのではないか。何だかんだで加納さんのペースにはまっているのである。素直に感動したと言える人はきっと正しい。

 なぜ「モノレールねこ」なのか、読んでみて苦笑した表題作。猫で文通するという設定が猫好きのハートを鷲づかみ。しかも文通の結末が出来すぎだ。

 ジグゾーパズルを最後に作ったのはいつだったか、「パズルの中の犬」。女手一つで育ててくれた母への複雑な感情。何気ない一言の重み。結末はめでたしめでたしかよ。

 中学生が一度に家族を失うという序盤がすごい「マイ・フーリッシュ・アンクル」。同居する叔父がひたすらにダメダメというだけの内容なのに、何となくいい話。納得いかん。

 仮面夫婦に仮の家、言い得て妙な「シンデレラのお城」。本作中唯一の悲劇のはずなのだが、悲劇になり切れていないのが加納さんらしい。これはこれで幸せな結末か。

 同居するとしたらさっきの叔父とどちらがましか、「ポトスの樹」。父親のクソオヤジぶりが延々と語られるだけの内容なのに、何となくいい話。納得いかん。

 ザリガニブーム到来間違いなし(?)、「バルタン最期の日」。ザリガニを語り部に据えるアイデアと、現代的テーマを絡ませる手腕に脱帽。本作中の個人的一押し。

 年に一回、心の中に積もり積もった穢れを祓うために、僕は加納作品を読むのだ。長く読書を続けるにはこういう一服の清涼剤が必要だよね。



加納朋子著作リストに戻る