加納朋子 17


少年少女飛行倶楽部


2009/05/15

 デビュー以来、ほぼ年1作ペースで作品を発表してきた加納朋子さんだが、2008年は新刊が出なかった。久々の新刊には、加納作品の魅力がぎっしり詰まっている。

 何だかやたらと窮屈で閉塞感のある今日この頃に、読んでくださった方の心が少しでも軽く、明るくなりますように。本作のあとがきにはそう綴られている。このご時世、書店には他人事のような悲観論を書き連ねた本が並ぶ。そんなものを読んだところで何の解決にもならないし、お金を出すのも馬鹿らしい。こういう本こそが処方箋だ。

 中学1年生のくーちゃんこと佐田海月(みずき)が、幼馴染みの大森樹絵里に誘われて入部したのは「飛行クラブ」という怪しげなクラブ。2年生の部長・斎藤神(じん)は案の定怪しい。そもそも樹絵里が入部したがった理由というのが…。

 部員が5人以上いなければ正式なクラブとして認定されない。部員探しから始めなければならない「飛行クラブ」の先が思いやられる。渋々ながら部員探しに奔走する海月が、わらにもすがる思いで訪ねた同級生の名は、「朋」と書いて何と読むでしょう?

 尊大な「神」部長を筆頭に、個性的な面々が集った飛行クラブ。徐々に明らかになる神部長の家庭事情。部員たちは違う顔を見せるようになる。それは海月自身が気づいていない、海月の人徳なんだ。時には樹絵里を疎ましく感じるが、態度には出さない。断るのが苦手なだけだと本人は言うが、それは多くの現代人が失った優しさなんだ。

 苦手なあいつとの和解シーンは、本作中最も印象的なシーンだろう。本当は優しいんだよね? 阪神のストッパーと同じ名を持ちながら、何とも頼りない球児君が、資金集めで大きく貢献する。全員の見せ場を用意するところは、加納さんの優しさだ。

 大人たちを説き伏せ、ついに目的を果たす時が来た。感動的なラストを迎えるのかと思ったら、1人だけ時間になっても現れない。その理由は…。最後の最後に、こんなアクションシーンが用意されているとは、恐れ入りました。

 感動作とは呼びたくない。素敵に明るい作品をありがとう、加納さん。



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