加納朋子 18 | ||
七人の敵がいる |
専業主婦の気持ちも、兼業主婦の気持ちもわかる、いわばコウモリ的な存在として、私にしか書けない物語がある……そう思い立ったのが、執筆のきっかけでした。
またあとがきから引用して、すみません。ご自身も母親業の苦労を知る加納朋子さんの新刊は、育児に追われる母親にも、任せっぱなしの父親にも、これから親になる人にも、今は独身だがいずれは結婚したい人にも、訴えるものがあるだろう。
主人公の陽子は、編集者として徹夜や休日出勤も珍しくない多忙な毎日を送っているが、一人息子の陽介が小学校に入学するに当たり、初めてのPTAの会合に出席した。親心から無理を押して出席したのだが、いきなり周囲を敵に回す陽子…。
いくら時間に追われているとはいえ、最初の陽子の対応に問題があったことは否定できない。僕自身、できれば面倒に関りたくないし、波風を立てたくない人間である。それでも根が生真面目なだけに、引き受けた以上はいいかげんにはできない陽子であった。
会社や義母家族との人間関係だけでもストレスが溜まるのに、PTA、学童保育、自治会それぞれの役員に行事、毎月の授業参観(そんなにあったっけ?)…。仕事は忙しい人に回ってくるとは言うけれど、投げ出さなかった陽子に心底敬服する。
陽介の小学校入学から卒業まで、かなり長いスパンの物語である。年度が変わる毎に現れる新たな敵。とはいえ、あいつを除けば本当の敵は少ない。陽子のやり方が100%正解ではなくても、熱意は確実に相手に伝わっている。そう好意的に思えるのは、中盤である事実が明かされたからなのだが。こういうの反則でしょ加納さん。
最後にラスボスとでも言うべきPTA会長との対決となるが、あの追い込み方はさすがに敵方に同情してしまった。しかし、編集者らしくフォローは忘れない。憎々しげに描かれる会長とて、子を思う気持ちは深いことを、読者はエピローグで知ることになる。
子供の頃、当然のように参加していた学校や地区の行事で、大人は準備に奔走していたのだなあ。と、今ごろ感謝しても遅いが感謝したい。