北村 薫 03


秋の花


2000/08/06

 正直に言って苦手な「円紫師匠と私」シリーズの第3作。現在5作刊行されているが、本作は唯一死者が出る作品である。

 「円紫師匠と私」シリーズは日常の謎を描いたミステリーと言われているが、本作で描かれているのは日常に潜む残酷さだ。

 幼なじみの真理子と利恵。高校の学園祭の準備中に、真理子が屋上から転落死してしまう。不可解さを残しながら、事件は事故として処理された。親友を喪い、抜け殻のようになってしまった利恵を案じ、二人の高校の先輩に当たる「私」は、事件の真相に迫ろうとするが…。

 結論から言って、事故には違いない。しかし、真相はあまりにも残酷だ。「私」が事件を調べる過程で浮かび上がる、事故前後の二人の奇妙な行動の数々。そこから円紫師匠が導いた真相は…。きっかけはちょっとした稚気だった。親友同士の以心伝心が、肝心な時に通じなかった、この皮肉。

 下手な同情や慰めの言葉の無意味さを、本作は訴える。それでは利恵を救えない。利恵が口を閉ざしていた真相を明白にしたことにより、円紫師匠と「私」はそのきっかけを作った。利恵が不幸な事故を自身の生きる力に変えられてこそ、初めて利恵は救われたことになる。それは容易ではないだろう。今後は利恵自身の問題である。

 本作には、シリーズの他の作品のような爽快感はない。しかし、僕はシリーズのベスト1として本作を挙げる。「日常」にぱっくりと開いた落とし穴の存在を、厳然と突きつけた作品だから。



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