北村 薫 05


六の宮の姫君


2000/05/29

 正直に言って、僕には本作の面白さが理解できていないし、またそれを語る資格もないだろう。出典数の多さに面食らいながらも最後まで読んだのだが、何だか右から入って左から抜けていくような…。

 最終学年となった「私」は、卒論のテーマとして芥川龍之介を選んだ。そんな中、文壇の長老から芥川の謎めいた言葉を聞かされる。それは、「六の宮の姫君」という短編作品に寄せられた、次のような言辞だった。

「あれは玉突きだね。……いや、というよりはキャッチボールだ」

 本作は、この言葉の謎を「私」が探るという物語である。「謎を探る」という点ではミステリーと言えなくもないが、故人に真意を問い質せるはずもない。何らかの答えに到達したとしても、それは決して憶測の域を出ることはない。だからこそ、文学という学問が成立するのだとも言えるが。でも、僕には釈然としない。

 高校時代の僕は、国語が苦手な典型的理系タイプだった。大学も工学部だったので、実験とシミュレーションに明け暮れる毎日を送り、活字にはまったく無縁だった。そんな僕であるから、そもそも本作に手を出したことに無理があったのだろう。ただ、一つだけ思ったことがある。受験の国語というものが、何と薄っぺらであることか。僕が読書をしなかった言い訳に過ぎないかもしれないが。

 一般受けはしない作品だろう。しかし、本作をシリーズ4作目に据えた北村さんと、出版した東京創元社の懐の深さには敬意を表する。



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