北村 薫 07


水に眠る


2000/10/13

 うーん、評価に困る短編集である。正直な話、10編の収録作品の中には意味がわからないものも何編かあったのだが、それを問うのは野暮なのか。北村さんらしさが随所に感じられるのは間違いないが。

 様々な愛の形を描く短編集―と文庫版の裏表紙には書かれている。これを読んだ時点で、僕には合わないであろうことは予想がついたのだが、印象に残った作品がないこともない。「植物採集」や「ものがたり」は、僕が読んでも本当に切ない。「かすかに痛い」は、文字通り読後感がかすかに痛い。しかし、そのものずばりの「恋愛小説」は…僕にはさっぱりわからないです。

 そんな中で、個人的な一押しを挙げるなら「くらげ」だろう。「円紫師匠と私」シリーズのファンなら、北村さんがこんな薄ら寒くなるような作品を書いていることを意外に思うかもしれない。「くらげ」が何を意味するのかはネタばれになるので書かないが、極めて予見的であるとさえ思える。決して笑い飛ばせない話ではないか。

 また、「矢が三つ」も興味深い。毛利元就の故事には何の関係もないが、世の男性にとっては洒落で済まされない作品かもしれない。コミカルな文体と内容のアンバランスさ。これも一つの愛の形なのか?

 本作は、わざわざ「贅沢な解説」と銘打たれている通り、10編それぞれで解説者が異なっている。さらに、全体を総括する解説を、また別の解説者が手がけている。総勢11名による解説も、それぞれのカラーが出ていて面白い。

 ちなみに、「くらげ」の解説を書いている貫井徳郎さんは、北村さんの後押しでデビューしたそうである。作風が正反対なお二人に、意外な接点があったものだ。



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