北村 薫 11


覆面作家の夢の家


2000/11/18

 シリーズ第三作。とうとうラストが近づいてきた…。

 「覆面作家と謎の写真」。ニューヨークに赴任していたはずの人物が、なぜか東京ディズニーランドで目撃された、というお話。もちろん、本人はその日は日本にはいなかった。うーん、切ない真相である。しかし、千秋嬢が考えたダイイング・メッセージのばかばかしさの方が印象深い…と言ったら怒られるか。このネタで書かれた話、本気で読んでみたかったりして。

 「覆面作家、目白を呼ぶ」。新人賞受賞作家に会うため出張した良介。そこで起きた驚くべき事件。崖に面した狭い道を走行中、先導してくれていた車が頭を左右に振り始め、崖下へと転落していった…。うーむ、これは素直に驚いた。動機としては弱い気がするが、大した問題じゃない。自然界は何とも奥が深いものである。北村さんは、こんなネタをどこで仕入れてくるのか?

 表題作であり、シリーズのラストを飾る「覆面作家の夢の家」。殺人事件発生…ただし12分の1のドールハウスの中でだが。一見悪趣味なこのドールハウスに込められた意味は? 最後に出たぞ、暗号が。しかし…こんなの解けるかい! まあ、ハッピーエンドということで良しとしよう。

 残念なことに、これでシリーズは完結である。改めて「円紫師匠と私」シリーズと比較してみると、登場人物たちにはそれぞれの魅力があるとは思う。しかし僕個人としては、普通に笑って、普通に怒って、普通に悩んで、普通に失敗もする「覆面作家」シリーズの登場人物たちに、軍配を上げたい。僕自身が結構抜けている面があるのも、影響しているかもしれない。

 北村さんには、是非とも長編での復活をお願いしたいものである。



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