北村 薫 25

ニッポン硬貨の謎

エラリー・クイーン最後の事件

2005/07/19

 翻訳物には疎い僕でも、このタイトルがかの有名な国名シリーズを意識したものであることくらいはわかる。華麗なるパスティーシュ(パロディよりはやや高尚ってことか?)とか言っているが、まあ小説には違いないだろう。

 …と思って読んでみたものの、ここまでマニアックな内容だとは。これは小説のようで小説ではない。北村薫によるエラリー・クイーン論だ。東京創元社だから刊行できた。

 敬愛してやまないエラリー・クイーンの未発表の遺稿を、北村薫さんが翻訳したという趣向の本作。作家にして名探偵のクイーンが来日し、公式日程のかたわら難事件を解決したというエピソードである(蛇足だが、実際のエラリー・クイーンは二人の共作作家)。

 英語には日本人に馴染みのない表現も出てくるし、そのまま訳せば意味不明になり、脚注が必要になってくる。翻訳物を読んだ経験がまったくないわけではないので、なるほど翻訳物っぽい雰囲気ではある。しかし、この脚注はわかる人にしかわからない。理解を促すどころか、僕にとってはお呼びでないと言われているのに等しいぞ。

 ますます「お呼びでない」という感を強くしたのは、第二部の大半を費やすクイーン作『シャム双子の謎』についての評論。同作およびヴァン・ダイン作『カブト虫殺人事件』『僧正殺人事件』を未読の方はご注意くださいと断っているが。……。まあ読む予定はないのでいいんだけど。ここまで読み込んでくれれば作家冥利に尽きるだろう。

 どうしても肝心の事件より評論の方がメインであるように思えるのである。謎解き部分が割とあっさりしているように感じられたからだが、この真相と動機もクイーンに精通していれば楽しめたのだろうか。これはもう手を出した僕が悪いとしか言いようがない。

 こんな僕でも、かつてはシャーロック・ホームズのシリーズ全作を読んだことがある。翻訳物で唯一はまった作品である。ホームズもののパスティーシュだったら楽しめるのだろうか。一つわかったのは、僕に他の翻訳物古典ミステリは向いていないということである。



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