北村 薫 36 | ||
飲めば都 |
北村薫さんの新刊は、飲兵衛が主人公。編集者の小酒井都(みやこ)さんは、本と同じくらい酒を愛する。飲んで飲まれて、飲まれて飲んで…都さんの武勇伝の数々。
都さんはじめ、酒でタガが外れる人物が多数登場する。品行方正な北村作品にあって、最も身近に感じる人物たちと言えるだろう。酒で乱れたことなど一度もないという方を除いて。僕自身、少なからず酒で痛い目を見てきただけに…。
全12編の序盤は、酒にまつわる武勇伝が中心に語られる。嗚呼、赤ワインが…。嗚呼、大事な大事な…。嗚呼、ブランド物のバッグに…。僕は都さんを笑えない。とはいえ、読み進めると、恋愛物の顔を持つことが徐々にわかってくる。
3「シコタマ仮面とシタタカ姫」は、嗚呼、都さん…。ありそうな話だけに、男としてそりゃどうよ。4「指輪物語」は、嗚呼、瀬戸口さん…。男性作家ながら、北村さんは女心を描くのがうまい。必要以上にドロドロさせないのは北村さんの優しさか。
序盤以降は、出版社の仕事に酒を絡めたエピソードが続く。仕事上の失敗に酒の失敗。業種は違えども、似たような失敗に身に覚えがあるような…。とはいえ、笑い話で済む程度(笑えないって?)に抑えているのは北村さんの優しさか。
後半6編は、都さんのロマンスを中心に進む。そんな中、9「王妃の髪飾り」では、久々に都さんの酒にまつわる大失敗が炸裂! 色々な失敗が描かれる本作中、最優秀失敗賞を授与したい。「円紫師匠と私」シリーズでは絶対に使えないネタだな。ぐふふ。
いよいよ終盤。10「割れても末に」は、どの夫婦も通ってきた道。11「象の鼻」の演出はなかなかに心憎い。しかし、悪酔い続出しそう…。最後の12「ウイスキーキャット」では、編集者ならではの名言が印象深い。夫婦愛が、そして本への愛がにじみ出ている。
結論は、酒は楽しくほどほどにってことですかね、北村先生。