北山猛邦 08

密室から黒猫を取り出す方法

名探偵音野順の事件簿

2008/08/31

 名探偵音野順シリーズの嬉しい続編が到着した。前作に輪をかけて名探偵らしくない順が、白瀬に引っ張られて5つの事件に挑む。

 表題作「密室から黒猫を取り出す方法」。真犯人のあまりにもクラシックな密室の作り方が、微笑ましくさえある。しかし、予期せぬアクシデントが…。『頭の体操』のごとき発想の転換。わかるかこんなもん。続く「人喰いテレビ」は、真面目に考えるだけ無駄。その発想の飛躍の源は何なんだ。論理的に説明はされるが、これまたわかるかこんなもん。

 「音楽は凶器じゃない」。絶妙というか反則スレスレなタイトル。6年前に学園で起きた事件の真相とは。わははは、これまた発想に恐れ入りました。しかし、準備も後始末もかなり大変じゃないか? いわゆる火事場の馬鹿力ってやつですか。

 順の兄、要が今回も登場。「停電から夜明けまで」は、5年も温め続けた殺人計画が微笑ましくさえある。しかし、要がいたのは大誤算だった。順よりよっぽど名探偵然としている。順も登場するが、こんな役回りでお気の毒。主役という自覚がそもそもないが…。

 書き下ろしの「クローズド・キャンドル」は、順のライバル登場? 兄の要同様、よっぽど名探偵然としているが、実に胡散臭い琴宮(きんぐう)。彼は、自殺と処理された事件が他殺だと主張するのだが。わははは、大トリック炸裂。一発でうまくいくかよこんなもん。成功させた真犯人に拍手を送りたいよ。琴宮は再登場するのだろうか。

 純粋な物理トリックで長編を書くのは、年々難しくなっている。事実、このシリーズで用いられたネタで、長編を書いたら怒られるだろう。短編だからこそ生きるネタだし、笑って許せる。この愛すべきシリーズは、是非長く続けてほしいと思う。

 とはいえ、物理トリックの雄たる北山猛邦さんには、長編も期待したくなるんだよなあ。『城』シリーズはどうなっているのでしょうか。



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