北山猛邦 09


私たちが星座を盗んだ理由


2011/03/22

 北山猛邦さんの久々の新刊は、5編からなる短編集だが、いずれもこれまでの作風からは意外な印象を受ける。こういう技も持っていたのか。

 「恋煩い」。嗚呼、健気で一途な乙女心。その心を笑えますか。誰だって験担ぎくらいはするし、誰だって朝の星占いをついチェックするよねえ。恋って難しい。

 「妖精の学校」。気がつくと謎の島にいたヒバリ。この島には、決して近づいてはならない2つの「虚」があるという…。個人的に膝を打った1編だが、オチの意味がわかった読者がどのくらいいるだろう。以下の空白部を反転してお読みください。

 最後の数字は、日本最南端である沖ノ鳥島の緯度・経度を示す。満潮時には北小島、東小島を残して水没する。2つの虚は、この小島に当たる。涙の形とは、島を囲む環礁の形と考えられる。意味を知った上で読み返してみると…。

 「嘘つき紳士」。青年が拾った携帯電話は、事故死した男性のものだったらしい。死を知らない恋人からメールが送られてくるのだが…。思った通りというか何というか、北山作品には珍しい俗っぽい1編。もっと大どんでん返しを期待したのだが。

 「終の童話」。人口100人に満たない村に、恐怖の石食いが襲いかかるっ! 騒動終結から11年、村にある男が現れた。しかし、それが新たな騒動の火種に…。最初から知っていれば、それなりの対処ができただろうに…。で、何この結末……。

 表題作「私たちが星座を盗んだ理由」。かつては星座好きだった僕には、ツボにはまった。何てロマンチックなトリックなんでしょう。しかし、その裏では愛憎劇が交錯し、実はロマンチックではない1編。結末が残酷というか自業自得というか…。

 物理トリックの雄がトリックに頼らない作品を書いたという点で、北山ミステリの新たな展開を予感させる作品集と言える。物理トリックの方も引き続きくお願いします。



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