北山猛邦 12 | ||
人魚姫 |
探偵グリムの手稿 |
アンデルセン作の童話『人魚姫』を知らない人は、まずいないだろう。僕もあらすじくらいは知っている。決して叶わぬ悲恋の物語だったはず…。
ところが、悲恋の裏には隠された陰謀があった。本作は、北山猛邦さんによる『人魚姫』の大胆な新解釈である。名作を本格ミステリにアレンジする試みには前例があるが、わざわざ『人魚姫』という難易度の高そうなネタを選ぶとは。
王子の結婚が決まり、悲嘆に暮れる人魚姫。そこに人魚姫の姉たちが短剣を差し出し、王子の流した血で人魚に戻ることができると告げる。しかし、愛する王子を殺せない人魚姫は、海に身を投げ、泡となって消えた…というのが原作の結末だった。
ところが、本作の世界では、人魚姫が泡になった翌日に王子が殺されてしまう。そして、消えた人魚姫に容疑がかかっていたのである。もちろん、人間たちは人魚姫の正体を知らない。これは人魚たちにとって由々しき事態であった。
アンデルセン少年(アンデルセン?)と旅の画家グリム(グリム?)の2人が、消えた人魚姫の妹であるセレナ(もちろん人魚)と共に、王子殺害の真相を探る。人魚姫の世界を借りつつ、内容は密室やアリバイなどオーソドックスな本格ミステリと言える。
ほう、今回は物理の北山らしさが発揮されている。馬鹿馬鹿しくていいねえ。でもね、見取り図とか一切ないのにそりゃないよ北山さん。というか探偵役のグリムが悪い。いつもこそこそ行動していて、読者に情報を出せっての。
トリックの部分はあっさりしているが、事件の背景や関係者の心情にも注目したい。原作者アンデルセンも知らなかった真相。原作を台無しにしているわけだが、純愛の物語である点に変わりはない。変わりはないんですよね、北山さん?
うーむ、この結末、どうなっちゃうのだろう…。