北山猛邦 13 | ||
人外境ロマンス |
本格どころか、とうとうミステリーかどうかも怪しくなった。北山猛邦さんの新刊は、一言で述べれば恋愛物である。それもそのはず、本作収録の6編中、5編の初出は角川書店が運営する携帯サイト「小説屋Sari-Sari」。主要ターゲットは女性らしい。
ただし、恋愛は恋愛でも、人間同士の恋愛ではない点にひねりがある。『人外境ロマンス』というタイトル通り、全6編、人と人ならぬものとの恋愛を描いているのだ。
「かわいい狙撃手」。一目惚れした青年は常に物騒なものを持ち歩いていた。疑惑に抗えず、探ってみると…掴みとして狙ったような1編でした。ほんわか。
「つめたい転校生」。誰に対しても冷たく、すっかり孤立した転校生が、忽然と消えた…。今風に言えばツンデレなんでしょうか。一応、本格っぽい。
「うるさい双子」。傷心の女子大生が、東北の旅館でアルバイトをすることになった。電話面接の際、彼女は1つ約束をさせらていた。これもツンデレといえばツンデレか。うるさいというより、面倒臭い双子のような。彼女の立ち直りを願う。
最も切ない「いとしいくねくね」。漫画家としてチャンスが巡ってきた男性。しかし、喜ぶに喜べない。思い返せば、彼の周囲では異変が相次いでいた…。最後の一文でようやく真相がわかる。元ネタはネット上で流布している有名な怪談なのだろうか?
こちらも切ない「はかない薔薇」。しかし…これは恋愛なのかどうか??? こういう研究について聞いたことはある。事件の解決手段はともかく、動機面との整合性は見事。
書き下ろしの「ちいさいピアニスト」。物語の構図を最初から見誤っていたことに、最後に気づく。色々障害があるだろうけど、うまくいくといいね。最後にほんわか。
随所にらしさが光る、北山猛邦にしか書けない恋愛小説だ。