古処誠二 01


UNKNOWN


2000/06/06

 大作が持てはやされる昨今の小説界である。1000枚以上は当たり前。2000枚超さえ珍しくはない。しかし、僕は読むのがあまり早くないので、辞書並に分厚い作品になると手を出す気も失せてしまう。京極さんのように、その厚さにありがたみさえ感じる作家も中にはいるが。

 そこで、本作である。第14回メフィスト賞に輝いた、古処誠二さんのデビュー作だ。本文のベージ数は200pほど。昨今の小説界では破格の短さと言えるだろう。しかし、山椒は小粒でもぴりりと辛い。長くなくても面白い作品は書けるのだ。

 舞台となるのは、航空自衛隊のレーダー監視基地。一般人には縁のない、閉ざされた世界。ある日、侵入不可能なはずの部隊長室に、盗聴器が仕掛けられる。事件の調査のため、防衛部調査班の朝香二尉が派遣されてくる。

 朝香二尉は、防衛大出身のいわば幹部候補生である。と聞くと、引いてしまうかもしれないが、朝香二尉の人物像は本作の大きな魅力の一つである。一般人が自衛官に対して抱くお堅いイメージを裏切るような、ユーモアに溢れた好人物だ。しかし、国防という任務に対する揺るぎない信念をも持ち合わせている。

 組織のしがらみに悩む隊員たちに、朝香二尉が語る熱い言葉。そこには嫌味っぽさのかけらもない。自衛隊ほど厳然たる階級組織ではないにしろ、僕も日頃から組織のしがらみを目の当たりにしている。時には仕事に取り組む気力が萎えてしまう。しかし、本作を読んで、何だか僕までが勇気付けられた気がする。

 僕の個人的評価はかなり高いのだが、読書仲間の中では戸惑う声も聞かれた。確かに、自衛隊独特のルールや、真犯人が盗聴器を仕掛けた動機などは、一般人には理解しがたいかもしれない。

 しかし、本作は古処さんの第一歩である。今後の展開を楽しみに待ちたい。



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