古処誠二 13 | ||
ニンジアンエ |
古処誠二さんの戦争小説を振り返ると、主に敗色濃厚な中での極限状態を描いていたと思う。新刊『ニンジアンエ』は、戦況が深刻化する前を描いている。日本軍に同行した新聞記者の美濃部は、この時点では日本が勝つと本気で信じている。
本作の序章は、マンゴー太郎という桃太郎のパロディのような話から始まっていて、何じゃこりゃとつい吹き出した。だがこれは、日本軍の宣撫班が、ビルマの部落を回って子供たちに語り聞かせる紙芝居なのだ。白熊団とは英国兵に他ならない。
前線の過酷さとはあまりにかけ離れた、宣撫班の仕事。美濃部とて、重要性を頭では理解しているが、物足りなさがはっきりと顔に出ていた。そんな美濃部が、逃亡するウィンゲート旅団の討伐任務に、頼み込んで同行することになった。
長く英国に支配されてきたビルマ。美濃部たち一行が、立ち寄る部落で歓待される背景には反英感情もあるのだろうが、宣撫活動の賜物だろう。やがて、英国軍のコーンウェル中尉を捕虜にした。だが、後送の途中でコーンウェル中尉は言う。英国が勝つと。
報道問題という切り口で本作を論じた書評を読んだ。なるほど、そういう一面はあるのだろう。美濃部だって華々しい戦果を伝えたいに違いない。だが、本作はそういう切り口だけで語れるだろうか? 宣撫活動とは要するに現地人の抱き込みである。
戦争は兵士だけでするものではないし、ドンパチだけが戦争の本質ではない。いかに現地人を味方につけるか。その点に本作のテーマがあるように思う。だからこそ、日本軍も英国軍もあの手この手で懐柔を図る。もちろん、報道と切り離せないことは否定しない。
美濃部たちと行動を共にするビルマ人の青年モンハンは、本作を象徴するキャラクターと言える。家族を英国兵に殺された彼は、強い反英感情のあまりインド人の捕虜を射殺してしまう。かといって、親日というわけでもなさそうだ。人間の感情は単純ではない。
これは人心を読み誤った一例である。この後、日本軍は誤算に誤算を重ねていく。