今野 敏 A-04


蓬莱


2008/10/11

 「今野 敏、まずはコレ!」という帯に惹かれ、初めて手に取った今野敏作品である。文庫版解説によると、本作は今野敏さんの63作目の著作にして、初のハードカバー。'95年版『このミス』第18位に入っているが、当時から注目した人は少なかっただろう。

 ワタセ・ワークスが発売したPC用ゲームソフト『蓬莱』は、大きな話題を呼び、いよいよスーパーファミコン版の発売が迫っていた。ところが、経営者の渡瀬は発売を中止するよう恫喝される。相次ぐ妨害。背後にちらつく大物政治家の影。

 ほぼ一人で『蓬莱』を手がけた大木の死に始まり、生産工場のトラブル、言いがかりも甚だしい強制捜査、銀行の取引停止通告。しかし、小さなソフトハウスにとって、発売中止は死活問題である。警察に通報しつつ、独自に調査を進めるワタセ・ワークス。

 『蓬莱』とは、作中にも挙げられた『シム・シティー』や、『信長の野望』などに代表されるシミュレーション・ゲームである。その内容を一言で述べれば、建国シミュレーション。渡瀬たちが攻略しながら調べていくと、封印されているのは歴史そのものだという。

 中盤ではかなりディープな歴史談議になる。固有名詞の嵐に、理系人間の僕は挫折しそうになった。鍵を握るその人物の名くらいは聞いたことがあるようなないような。何とか突破し、終盤に至ると荒唐無稽な計画に唖然とする。『蓬莱』の攻略法、それは…。

 本作では脇役だが、『蓬莱』に絡んだ一連の事件を捜査する安積警部補は、他の作品にも登場する。最初は渡瀬たちの訴えを話半分に聞いていた安積も、やると決めたら大物政治家相手でも徹底的にやる男気を見せる。他の作品も読んでみたい。

 グローバリズムが声高に叫ばれた挙句、米国発の世界同時恐慌に見舞われる現在にこそ、実に興味深い作品と言える。なるほど、その思想は傾聴に値する。しかし、そのために多大な犠牲を払っていい道理はない。ヴァーチャル世界をネタにした作品では一二を争う完成度と面白さ。再評価されて然るべき作品ではないか。

 それにしても、スーパーファミコンの容量にこれほどの内容が収まるのだろうか?



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