今野 敏 A-10

最前線

東京湾臨海署安積班

2009/06/24

 本作の初版刊行は2002年。1997年のフジテレビのお台場移転完了から5年が経過し、湾岸エリアが急速に持てはやされた時代。しつこいようだが、湾岸エリアに船の科学館くらいしかない時代から、安積班シリーズは続いているのだ。

 社名こそ出てこないが、最初の「暗殺予告」に出てくるテレビ局がフジテレビであるのは明白だ。香港マフィアに狙われているという映画俳優、サミエル・ポーが来局するため、警備に駆り出される安積班。一見無関係な事件が繋がる、長編にも使える豪華編だ。しかし、TBS系で映像化するなら赤坂が舞台になるのだろうか。

 決して答えが出ない永遠のテーマに切り込む「被害者」。安積の行為で被害者が生き返ることはない。それでも動かずにはいられない。一応、ドラマ版第2話に関係ある?

 「梅雨晴れ」とはこの季節にぴったりなタイトル。じめじめした季節、人々のイライラは普段にも増して募るが、自制しないとね…。雨降って地固まるってことですか。

 表題作「最前線」は、都内有数の犯罪多発地域にある竹の塚署が舞台。注目は、かつて安積班の一員で、現在は竹の塚署に勤務する大橋が登場すること。成長した大橋が、安積班最年少の桜井にかけた言葉とは。社会人なら感じるものがあるだろう。

 安積班シリーズには珍しいアクション編「射殺」。安積がロサンゼルスから来日した捜査官アンディー・ウッドと組むのだが、捜査手法の違いで2人は対立する。映画『ブラック・レイン』のような憎い1編。来週放送のドラマ版第12話の原作らしいが、はてさて。

 最後の「夕映え」は、ドラマ版第8話の原作だが、内容はかなり変わっている。階級がものを言う警察社会。上に意見することも珍しくない安積だが、階級では下の大先輩・三国相手に気を使ってしまう。三国の懐の深さが読みどころなのだが、残念ながら、ドラマ版ではその点が台なしになっている。このように生きられるなら生きたいね。



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