今野 敏 A-14

夕暴雨

東京湾臨海署安積班

2012/04/24

 解説によると、本作はある有名作品とのコラボなのだという。何も言われなければわからなかっただろう。その作品のタイトルくらいは僕も聞いたことがあるけども、物語上必要不可欠とは思えない。解説では絶賛されていたが…。

 安積班シリーズとしては久々の長編である。安積たちが所属する東京湾臨海署が新庁舎に移転した。署の規模が大きくなり、人員も増強される。その結果、本庁捜査一課から異動してきたのは、あの相楽。安積班は相楽班と同居することになった…。

 晴海の国際展示場で行われるイベントへの爆破予告がネットに書き込まれた。安積、相楽両班が警戒に当たるが、狂言に終わった。ところが、今度は別のイベントへの爆破予告がネットに書き込まれる。須田の感触では、本気だというのだが…。

 シリーズの読者ならご存知のように、度々登場する相楽は、やたらと安積をライバル視している。同僚になってさらに対抗心むき出しだが、どこか憎めないキャラクターである。予告通り、イベント中にトイレの個室で爆発が発生した。成り行き上、安積班と相楽班で競い合うことになった。気が進まない安積に対し、大いに乗り気の相楽。

 爆発事件とはいえ、事件そのものに派手さはない。何となく予想された真相ではある。本作の読みどころは、安積が組織のせめぎ合いや人間関係にぼやきつつ、刑事魂を見せる点にある。警備部と刑事部の綱引き。苦手な相楽をいなす。部下の村雨とは相変わらずそりが合わないが、信頼している。苦手でも避けないのは見習いたい。

 須田の直感を重視する安積だが、証拠もなしに上層部を説得はできない。本当に見落としはないか、何度も何度も検証する。本庁の刑事が呆れるほどに。わずかな手がかりを元に粘り強く説明し、最後には上層部を動かすのだ。

 安積班シリーズのいいところは、変に脚色せず、地道な捜査のプロセスを丹念に描くことだと思っている。それだけに、このコラボは唐突すぎて戸惑った。



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